復讐

昔あるところに鬼の一族と呼ばれる者たちが住む里があった。

そこに住む者は常人とは違う力を持ち、戦場でその姿を見て、一人の時に出くわしたら逃げ出せ、百でも逃げ出せ、千でなら生き残れるやもしれぬと言い伝えられていた。

戦場で鬼の一族の通った後は血の雨が降る。

ある、大名がその一族を見た時に言った言葉である。

鬼の一族の力を恐れた大名は一族を根絶やしにする計画を立てた。

「あの者たちの力、あまりにも強すぎる、他の者に利用されことは避けたい」

鬼の一族はどこかの領主に属するとこなく、金をつまれたらつくということをしていた。

女、子供老人を合わせても百人に満たない村に二十万の兵を用意した。

「火を放て!」

村めがけて火の雨が降りそそいだ。

「兄じゃみてください。綺麗ですよ」

十歳にも満たないおなごが野に咲く花をしゃがんで見ていた。

「ああ、そうだな」

おなごの兄であろう美丈夫が微笑ましく横に立っていた。

ひゅーん! ざ!

一本の火の着いた矢が花に命中した。

花びらが割れる。

「キャ!」

おなごはびっくりして尻餅をついた。

!!!

美丈夫は空を見上げる。

天にあるはずの無い炎が無数に広がっていた。

美丈夫はおなごを抱き上げて、すぐそこの林のなかに逃げ込んだ。

かん! かん! かん! かん! かん!

矢が木に突き刺さる。

幸い、二人に矢がささることはなかった。

「あにじゃ……いったいなにが起こっているのでしょうか」

「わからんが、父さんのところに行った方がいいみたいだ」

美丈夫はおなごを抱えたまま風の如く道を駆けた。

村の屋根には矢が刺さり、家が燃えている。

何人か矢が突き刺さったまま倒れている者たちがいる。

「くっ!」

それを後目に美丈夫は家に急いだ。

戸を音を立てて開けた。

「父さん!」

屋敷の中には村で生き残ったものたちが集っていた。

三十ばかりであろうか、怪我を負っている者、女と子供を合わせての数である。

「おお、生きていたか龍氣丸よ、戦う準備をしろ」

美丈夫が見るともう戦の装束がそこに置いてあった。

「敵は見当もつかないくらい沢山いるようだ、戦える者は女、子供を逃がすためにここで果てろ」

赤子の泣き声が屋敷に響いた。

「龍氣丸は、虎次郎と共に珠代を村から逃がせ」

「俺も戦う!」

「馬鹿者が、戦うなとは言うておらん、そもそも逃げれるかもわからんのだ銘々バラバラに動いて運良く生き残れる者がいたらよいのだ、では皆の衆、心せよ!」

そこにいた者たちは一斉に屋敷から飛び出した。

敵の兵が凄まじい数、村に押し寄せてくる。

そこに一人の村の者がまっすぐ突っ込んだ。

敵の首が一瞬で十、落ちた。

「ぐあああああああああああああああ」

「化け物かあああ」

「かかれえええええ!」

鎧武者達が次々と襲いかかる。

「なあ、龍氣丸、珠代ちゃんお嫁に貰えなくて済まなかったなあ」

「なに寝ぼけたこといってやがる、ここで生き残っていても珠代はお前にはやらん」

顔を血に染めた二人の豪の者が崖を背に言葉を交わしていた。

美丈夫は膝をついて女子の肩を掴む。

「珠代、ここから下に飛び込め、もう助かる道は他にはなかろう」

おなごは涙を目にためて首を横に振った。

「もしかしたら、我ら一族の者ならここから落ちても生き残れるかもしれん、ここでおさらばじゃ」

美丈夫はおなごを抱え上げて奈落に突き落とした。

「あにじゃあああああああ!!!!!!」

どばん!水に落ちた音がした。

下は激流であった。

振り返り、もう一人の男と並ぶ。

「さあて、いっちょやるかあ!」

「お前となら負ける氣がしねええなああ!兄弟!」

回りを囲んでいた敵兵たちは物怖じして身動きがとれなくなっていた。