盗む

「貴方の心を盗みに参りました」

その男を月を背にして、そう口にした。

ローザはベランダから不審者を眺めていた。

「この手紙をくれたのは貴方ね?」

「そのとおり!とう!」

男は屋根から飛び降りて、ローザのいるベランダに着地した。

男はひざまずき、ローザと視線を交わす。

男は射るようにローザの紫色の瞳を見つめた。

ローザも男の緑色の瞳を見た。

「なんと美しい瞳なんだ……再び貴方と見つめ合うことができる喜びをなんと表現したらいいのだろう」

「あなた……もしかして」

男は立ち上がり、ローザの口元に人差し指を押し当て、「しー」といった。

男の目元だけ見える顔がローザの顔の間近にあった。

ローザは昨日の昼間この男と同じ色の瞳を見たのを思い出した。

あれは昼過ぎのことだった。

ローザは退屈だったから、城を抜け出して城下町に遊びにいったのであった。

黒い服装に、頭にも布をかぶって目だけをだしていた。

ぶらぶらといつものように露店を見ながら珍しいものがないか物色していた。

ある店で気になったものがあった。

(あら、なにかしらあの石)

キラリと光る緑の石だった。

宝石だろうか?結晶の内側でヌラヌラと揺らめくものをローザは感じとった。

「店主さん、これはなに?」

店のおやじは閉じていた目を片方だけ持ち上げて、ローザを見た。

「これはお目が高い、お嬢さんそれは宝石ですよ、ただねいわくがあってね、全然売れやしないんだよ」

「へえ、どんないわく付なのかしら」

「へへえ聞きたいかい?じゃあ、いちディナーブル頂くよ」

「それだけで、お金を取るの?!」

「どうせ聞いたら売れないからねえ、これで商売してるのさ」

ローザはしぶしぶ、懐から金貨の入った袋を取りだして老人に金貨を手渡した。

「まいどあり、その昔その宝石はある外国の王が持っていたとされる宝石なんだがね、その王が他国との戦争で首をこうされちまったんだと」

老人は親指を立てて右から横に自分の首を裂いた。舌をだす。

「それからだ、その宝石がおかしくなっちまったのは、この宝石を持った他国の王は早死にし、次の息子も殺された、次の持ち主も国をおわれ、流れ流れて、この宝石を持つ物は不幸が訪れるそんないわくがついちまったんだよ」

「あなたは大丈夫なの?」

老人はにやりと笑う。

バッ!と足下の布を取り去り、ローザに見せた。

ローザの顔は青ざめた。